広島高等裁判所 昭和27年(う)802号 判決
憲法第二一条に保障する表現の自由と雖も公共の福祉の為に必要止むを得ない限度に於ては制限することが出来るものである(昭和二四年五月一八日最高裁判所大法廷判決参照)ところ、其の表現の自由の中の一である集会、集団行進は道路其の他公共の場所で行はれる場合に、又集団示威運動は其の性質上場所の如何を問はず、往々にして所謂群衆心理に駆られて、ややもすれば自由の濫用に陥り、延いては公共の福祉を侵害するところから、本条例は道路其の他公共の場所を使用する公衆の権利を保護する為に、これらの場所で行う集会、集団行進又は場所の如何を問はず集団示威運動に付公安委員会の許可を受けないで行つてはならないと規定し(同条例第一条)たものであつて、集会、集団行進に付ては場所的に制限があり、集団示威運動に付ても其の性質上法文には場所的制限をつけて居ないが、本条例が前記の様な目的で制定せられたものである以上道路其の他公共の場所を使用する公衆の権利と何の関係もない例えば一定の工場内に於ける其の工場労務者の使用者に対する集団示威運動の如きは本条例の対象とならないものと解せられるのみならず、本条例第六条第七条には本条例制定の趣旨目的からして本条例の対象となるべき集会、集団行進、集団示威運動を厳格に限定解釈すべきことを命じて居ると共に本条例施行規則第一条には本条例の対象から除外せらるるものを規定して居るから、本条例の対象は一応限定せられて居るものといはなければならぬ。次に本条例第三条には公安委員会は周囲の情勢から合理的に判断して、其の集会、集団行進、集団示威運動が公共の安寧を保持する上に直接危害を及ぼすと明らかに認められる場合の外は之を許可しなければならぬと規定して、一定の場合の外は必ず許可すべきことを命じて居る外前記第六条、第七条の規定及第三条第二項の許可を与える場合に於て参加者の秩序を保持し公衆を保護する為必要と認める条件を附することが出来る旨の規定等其の他本条例の全趣旨から考案すれば本条例に所謂許可の性質は一般的原則的に禁止した行為の禁止を例外的に解除して之を行ふ権能を付与する性質のものではなくして、或る事実又は法律関係に付て公の権威を以て其の適否を確定する確認行為と其の確認の申請を為さしめて之を受理する行為を併せ有する性質のものというべきである。
而して一定の集会、集団行進、集団示威運動に付届出制を採るにしろ、許可制を採るにしろ公安委員会に対し何等かの手続を要することとして居るのは、周囲の情勢から合理的に判断して公共の安寧を保持する上に直接危害を及ぼすと明かに認められる場合には其の実施を許すべきでないことは当然であり、之を許さないことが憲法の精神に違反するものでないことも亦自明の理であるから、右の様な当然許すべからざる場合に該当するものであるか否か、又は右の様な当然許すべからざる場合に該当せず、従て当然其の実施が許される場合であるとしても群衆心理其の他四囲の情勢上あるいは起ることあるべき公共の危害を予防する為の条件を附する必要があるか否かを、公安委員会をして弁別判定せしめることとし、其の為に一応同委員会に対して必要事項と共に其の申請手続を為さしめることとしたものであり、右の様な手続は公共の福祉の保護に誤りなからしめる為の一の手段であつて、右の目的以外にみだりに集会其の他一切の表現の自由又は勤労者の団体行動権に干渉し之を制限し様として居るものでないことは明らかである。もつとも公共の安寧を保持する上に直接危害を及ぼすと明らかに認められない即当然行つて然るべき行進等に付てまでも一応公安委員会に対する何らかの手続を必要とすることは、何時でも自由に行い得ることにくらべると、其の自由に制限を受けることにはなるが、其の制限は公共の福祉を保護する為の一つの手続的のものに過ぎず、現下の社会状勢の下に於ては公共の福祉の為にやむを得ない制限として認められて然るべきものと解する。
従て本条例は所謂許可制を採つて居るけれども所論の様に何等憲法に違反して居るものではない。
もつとも本条例には其の用語に於て正確さを欠き、規定の内容に於て抽象的に過ぎる点がないこともなく、従て許否権を握る広島市公安委員会が具体的問題の処理に関し、本条例本来の趣旨目的に違背し、基本的人権の制限に付公共の福祉の為に必要な最小限度を逸脱する虞があるとの一般国民の不安も全く理由がないものとすることは出来ないが、本条例第三条第五項には公安委員会が不許可の処分をしたときは、其の旨を詳細な理由をつけて速かに市議会に報告すべきことを命じて不許可理由の公表批判の道を開き、右の様な違法の処分の行はれることを防止せんとする措置を構じて居るのみならず、右は本条例運用の問題であつて、之を以て未だ本条例の規定自体が憲法に違反して居ることの理由となすことは出来ない。